苛烈なる戦記と純粋な恋物語の融合【プロペラオペラ感想】

プロペラオペラ (ガガガ文庫)

プロペラオペラ (ガガガ文庫)

 

 

 待ちに待った、犬村小六の最新作。今作では再び空が舞台となる。犬村さんの瑞々しい心情描写は空に似合うと思うので個人的にはとても嬉しい。


 今作も、世界観はかなりシビアだ。太平洋戦争をモチーフにしていることは、地名や人名などからも伺える。ライトノベルの範囲からはかなり逸脱した題材のようにも思えるけれど、それはまあ今更ですね。

 

 

 いやしかし、今作で改めて犬村作品の魅力を再認識した。世界観はかなり血なまぐさいもので、名前も分からない何千人もの人々が死んでいく。時としてネームドキャラもその例外ではない。しかし、その中で物語の核となるのは、少年少女の恋物語であったりする。それも、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに純粋な恋模様が描かれていく。そして混沌とした戦記を背景とすることで、その純情はより強い輝きを放つ。


 今作で言えば(たぶん)クロトとイザヤがその主役となるわけだけれど、特にクロトの人物造形はとても好感が持てる。圧倒的な自分への自信とそれ故の独善的な性格、その裏には真面目で負けず嫌いな面もある。それが天然だというから、どこか憎めず、親しみを感じる。作中ですぐに井吹の乗員たちに馴染んでいたのもうなずける。


 そして二人の関係性がまあプラトニックと言うか、犬村さんは本当に少年少女二人きりの逃避行が好きだなあ!(いいぞ、もっとやれ!)ニューヨークでホットドックを食べる場面も、メロンの特典にあったSSも、ふたりきりの世界が広がっていて幸せだった。ふたりで一生逃避行していてほしい。

 

 ……まあ、それが許されない世界を描いてきたのも犬村小六という作家なんですけれども。

 

 

 世界観と恋物語がうまいミスマッチを作っている、というところまで話を戻す。その題材とテーマの乖離がうまく現れている場面が終盤に現れる。最後の弾着観測のシーン、そこでイザヤはクロトへの想いを吐露する。その言葉の合間には、敵艦に空雷が直撃する情景が描かれる。そこには地獄絵図が広がっているわけだけれど、その混沌が、彼女の純粋な感情を引き立たせている。過去作を思い出すようなことを言えば、誓約3巻のミオとの別れの場面、そこでは彼女の本音と建前が入り交じり、こちらの心までぐちゃぐちゃにされた。構造としては、それと同じものを感じた。こういうやって読者の心を弄んでくるの、ほんとうに、好きです。


 なんかもう、二人の世界だけで話が進んでいけばいいのに。カイル・マクヴィルとかいうやつ、ほんとに邪魔だなあ(オイ)。あ、カイルはクズすぎて一周回って好きです。早く地獄の底に落ちる様が見たい。
(あれ、もしかしてカイルのせいで純粋な恋物語にならない可能性かなり高そうでは……???)