横アリから帰ってAqua Timezについて考えた。

 

 2018年11月18日横浜アリーナ
 Aqua Timez Final LIVE "Last Dance"

 

 あの日から一年が経った。
 本番では一曲目の「上昇気流」が流れ始めたときから、涙が止まらなかった。それくらい好きなバンド、だった。
 過去形で書きはしたけれど、もちろん彼らを嫌いになったわけではない。彼らの音楽は、僕の中に深く刻まれている。しかし、あれからというもの、あまりAqua Timezの曲を聞かなくなった。
 2018年春に解散が発表されてから、彼らの曲を聞き倒した。その他の曲をほとんど聞かなくなるくらいには、のめり込んでいた。
 しかしあの日、僕はライブに込められた彼らの思いを受け取ってしまった。「because you are you」の大合唱。「Last Dance」を越えた、アンコール前最後の曲「銀河鉄道の夜」には、この日の、その先へ向かうための言葉が詰め込まれていた。そしてAqua Timezの最後を飾った「虹」。それは最後とは思えないほどに、明るく、あたたかい時間だった。
 ライブに行く前は、きっと引きずるんだろうなと思っていた。これからどうやって生きていくんだろうとも思っていた。紛いなりにも10年間追い続けてきたわけだし、辛いときには彼らの音楽が何度も寄り添ってくれた。
 でも、あんなライブを見たら、引きずるなんてこと、とてもできないじゃないか。別れは辛いことだけれど、前を向いて歩いていこう。彼らはあの日の横アリで、そんなメッセージを伝えてくれたんだと思う。
 音楽や物語は、人を助けることはできない。ただそばにあって寄り添うだけだ、というのが僕の基本的な考え方だ。けれど、あの時確かに、僕という人間は、音楽によって救われたのだと思う。

 


 2019年11月18日
 Little Parade Special Live

 

 太志が活動を再開する、と聞いたときは嬉しかったし、彼は他のメンバーと違って近況が分からなかったから、安心という気持ちもあった。けれど、僕の中に去年のような熱量は発生しなかった。ただ、これは燃え尽きたのとは少し違う。
 Aqua Timezは、11月18日の横浜アリーナは、僕にとってひとつの帰るべき場所になったのだ。あの頃の思い出が、歌に詰まっている。歌を聞けば、あの頃感じた様々な感情が蘇ってくる。まるで心の中に第二の故郷ができたかのように。

 音楽は人を救わない。けれど、私の一部は、確かにAqua Timezの音楽でできているんだ。
 
 そして、ついにLittle Parade Projectが始動した。あの頃のような熱狂こそないけれど、それがなければ音楽を楽しめないという道理もない。「ユニコーンの角」も「群雨」も、フルバージョンではなかったけれど、その中に確かに太志らしさを感じた。今明らかになっている部分は少ないけれど、太志の詩とTonoさんの絵から、Little Parade Project はどんな展開を見せてくれるのだろうか。そして僕はどんな感情に出会うことができるのだろうか。とても、楽しみだ。

 

www.littleparade.jp

苛烈なる戦記と純粋な恋物語の融合【プロペラオペラ感想】

プロペラオペラ (ガガガ文庫)

プロペラオペラ (ガガガ文庫)

 

 

 待ちに待った、犬村小六の最新作。今作では再び空が舞台となる。犬村さんの瑞々しい心情描写は空に似合うと思うので個人的にはとても嬉しい。


 今作も、世界観はかなりシビアだ。太平洋戦争をモチーフにしていることは、地名や人名などからも伺える。ライトノベルの範囲からはかなり逸脱した題材のようにも思えるけれど、それはまあ今更ですね。

 

 

 いやしかし、今作で改めて犬村作品の魅力を再認識した。世界観はかなり血なまぐさいもので、名前も分からない何千人もの人々が死んでいく。時としてネームドキャラもその例外ではない。しかし、その中で物語の核となるのは、少年少女の恋物語であったりする。それも、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに純粋な恋模様が描かれていく。そして混沌とした戦記を背景とすることで、その純情はより強い輝きを放つ。


 今作で言えば(たぶん)クロトとイザヤがその主役となるわけだけれど、特にクロトの人物造形はとても好感が持てる。圧倒的な自分への自信とそれ故の独善的な性格、その裏には真面目で負けず嫌いな面もある。それが天然だというから、どこか憎めず、親しみを感じる。作中ですぐに井吹の乗員たちに馴染んでいたのもうなずける。


 そして二人の関係性がまあプラトニックと言うか、犬村さんは本当に少年少女二人きりの逃避行が好きだなあ!(いいぞ、もっとやれ!)ニューヨークでホットドックを食べる場面も、メロンの特典にあったSSも、ふたりきりの世界が広がっていて幸せだった。ふたりで一生逃避行していてほしい。

 

 ……まあ、それが許されない世界を描いてきたのも犬村小六という作家なんですけれども。

 

 

 世界観と恋物語がうまいミスマッチを作っている、というところまで話を戻す。その題材とテーマの乖離がうまく現れている場面が終盤に現れる。最後の弾着観測のシーン、そこでイザヤはクロトへの想いを吐露する。その言葉の合間には、敵艦に空雷が直撃する情景が描かれる。そこには地獄絵図が広がっているわけだけれど、その混沌が、彼女の純粋な感情を引き立たせている。過去作を思い出すようなことを言えば、誓約3巻のミオとの別れの場面、そこでは彼女の本音と建前が入り交じり、こちらの心までぐちゃぐちゃにされた。構造としては、それと同じものを感じた。こういうやって読者の心を弄んでくるの、ほんとうに、好きです。


 なんかもう、二人の世界だけで話が進んでいけばいいのに。カイル・マクヴィルとかいうやつ、ほんとに邪魔だなあ(オイ)。あ、カイルはクズすぎて一周回って好きです。早く地獄の底に落ちる様が見たい。
(あれ、もしかしてカイルのせいで純粋な恋物語にならない可能性かなり高そうでは……???)